ジンフィズGin Fizzはバーテンダーの裁量を試すことができる超スタンダードなカクテルだという話

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画像:カリカリのトロトロに冷やされたビーフィーター(BEEFEATER DRY GIN)肉食のオッサンという意味です。

まずはじめにジンフィズのレシピを紹介しておきます。

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レシピ

ジンフィズのレシピ

  • ドライジン 45ml
  • レモンジュース 20ml
  • 砂糖 小さじ2杯
  • ソーダで割る(適量)

 

作り方の手順

  1. ジン、レモンジュース(シロップ)、砂糖をシェーカーに入れてシェイク。
  2. シェイクしたお酒をソーダで割る。

作り方はとてもシンプルなカクテルです。

 

続いてジンフィズに関するステキな思い出話です。

今から20年位前。バブルの終焉に近い頃の物語です。

1980年代が終わる頃、

いろんな街にカフェバーやダイニングバーが生まれ夜な夜な大人の男女がお酒と会話を楽しんだ時代がありました。

ディスコやクラブで派手なファッションが流行する中アルコールを提供するBar(バー)も様々なアイデアを取り込み、料理を売りにしたり、映画「カクテル」に象徴されるようなパッションなカクテルを提供することで注目を浴びるお店が目だった時代。

その中でも日本には、スタンダートで老舗のバー。

いわゆるオーセンティックバーというまじめで堅い雰囲気の世界がありました。

しかし、時代背景もあってか本格派寄りのバーテンダーの業界でも、カクテルの独創性を競うカクテルコンテストなどが開催され、全国の有名Barから多くのバーテンダーが参加しました。

オリジナルカクテルを発案し審査員が味を見定め独創性や味のバランス、そして細やかな客への気配りなどが配点され見事チャンピオンになったバーテンダーの所属するお店は雑誌の取材などで繁盛したものです。

個人的な印象では、そのコンテストは接客の質を問うものではなかったように記憶している。派手さと洗練度が評価されていたのではなかろうか。あくまでもPRの権利争いだったようなイメージだ。

そういう華やかな世界のバーテンダーはモテモテでバブル期を象徴する一過性の天下を感じるご職業に当たっていたのかもしれません。そんな時代の記憶です。

ではジンフィズのお話です。

本来まじめで質素な業界である日本の(オーセンティック)バーの世界で、派手なパフォーマンスを好まないある小さな町のバーテンダーが言っていたカクテルの話があります。

ジンフィズこそ、その店の姿勢を表すカクテル

彼は口癖のように

「ジンフィズが一番難しい…」

と言っていた。。

GIN FIZZ…それは12オンス程度のタンブラーに程よい氷とジン、そして砂糖を加え炭酸で割るカクテル。

そんな簡単でスタンダードなレシピのカクテル。

非常にシンプルで古臭いカクテルの名前だ。(昭和60年代で古いカクテルとして若者には好まれなかったカクテルだが昭和50年代には大人気のカクテルで古いバーテンダーはジンフィズについて同じような表現をする人も多かった)

当時の40代~50代の大人が時折その名前を注文する程度で大衆顧客を無作為に集めるチェーン店や派手な集客を行うカクテルバーでは非常に扱いが低い位置にあったジンフィズ。

今で言うところのチューハイレモンのような扱いか。。

味もけったくれもない。

そんな低いポジションにいる超がつくほどスタンダードなカクテル。

ある街のバーテンダーは言いました。

ジンフィズをおいしく作れるバーこそ最高のBarだ。

当時の僕には意味がわからなかった。

どういう意味か尋ねると

バーはお客様一人ひとりにあったサービスを提供できる場所だ。

常連のお客様でも一見のお客様でも会話やしぐさの中に今の状態に合うお酒を提供できるヒントが必ず存在する。

そういったお客さまの状態(食後であったり食前であったり、辛口好みの常連であったり、甘口好みの女性だったり)をできる限り察知する接客を心がけている。そしてお客様一人一人に合った一杯を提供する。

と語った。つまり

同じジンフィズでもお客一人ひとりで味の感じ方が違う。

ということだ。

そして彼は続けました

一環してお客さまの空気を読んでいる

というのだ。

面倒くさい話だ。

実際に注文が入ったときのこと…

バーテンダーは今からそのシンプルなジンフィズというカクテルを作る。

ベースになるジンの選択が始まる。

ドライ目のビーフィーターか?

あっさり目のボンベイサファイアか?

はたまたタンカレーのような辛口さっぱりにするか。

砂糖の量は食後ならやや多めに、食前なら控えてレモンを多めにするか。

炭酸の量は氷の大きさは…。

レシピを超えた調整(心遣いというサービス)を提供するのです。

(※ちなみにこの店ではお酒を一杯提供するたびに氷を包丁でカットしていた。まるで豆腐のように氷をカットする姿は職人そのものだった。)

そのように、たった一杯のカクテルを提供するだけ。

その行為の中で、誰の目にも見えない気遣いを誇りに思っている。

そんなやや頭の固いバーテンダーだった。

同時にこれが彼の信念でもあった。

バーテンダーいわく、

こういう気持ちのもとに作られたお酒を提供できるスタッフの存在するお店こそが

良いバーである。

そう語った。

同時に、

「ジンフィズをちゃんと作らへんバーテンダーの店なんて。。」

途中で言葉を止めたが言いたいことはわかった。

彼のサービスへのこだわりは、もちろん多種多様なほかのカクテルについても同様だった。

ストレートやロックのウィスキーにいたるまで注ぎ方やゲストの目の前に置くまでの丁寧な演出すら忘れない。派手さこそ持ち合わせていないがそんな頑固で無骨なバーテンダーだった。

決して万人がそのような堅苦しい厳かなサービスを望んでいるわけではない。

当時の僕は反論的に思ったものです。

しかし、派手さを売りにする商売もあれば堅実の奥深さを追及するサービスもあるのだと、その姿をただ横で眺めていた。

接客業という仕事。

その基本はサービス(召し使える)という言葉の語源をどのように再現するのか。

ビジネスゆえ表現の違いはあれど、こういったまじめ路線で継続するお店はなかなか利益が着いてこない。

しかし、

  • 自分だけの時間
  • そして美味しいお酒

これらを忠実に体感できる酒場を探す人も世の中には存在するのだろう。

バタバタと閉店するバーが多い中、小さな町に生まれたあの店はすでに営業20年を超える老舗になった。

ジンフィズ。

最近めっきりその名前を聞かなくなったカクテル。

誰でも簡単につくれるこのスタンダードカクテル。

作り手の気遣い一つで

飲む側の人間が過ごす時間の価値も変わる。

堅い話だがそういうのは嫌いじゃない。

 

今度、どこかのバーで頼んでみようかと思う。

流れる時間を贅沢に過ごせることを夢見て。

 

そして、

そんなわがままな自分の好みの味を確認するために…。

今宵もキッチンのクーラーボックスからドライ・ジンを取り出すのでした。

ジンフィズのベースにオススメのドライジン

ビーフィーター スタンダードながらもドライで切れのあるジン

世界で愛されるドライ・ジンはソーダに最も合うフレーバー

 

タンカレードライジン ドライを極めたいならタンカレー

ドライマティーニ専用のジンは解る男だけのジンフィズに

 

ボンベイ・サファイア 透明感のある飲み心地とドライテイストの融合

美しい女性に似合う特別な時間とともに

 

ゴードン スタンダードで味わい深いドライジン

活気あふれる時間をともに味わう

 

■時代背景の参考資料 映画 カクテル トムクルーズ主演。

 

※これは兵庫県尼崎市に実在する小さなBARで現在も活躍するバーテンダーのお話です。阪急園田駅前で店の前に大きなクスノキが有るBARです。