
ハイレゾやロスレスで音楽聴いてるのですが、レコードの音と比べると、SN比が低くて音質が悪いはずのレコードの音が、とても良い音に聞こえます。
とても不思議です。
レコードとデジタル機器のSN比って関係あるんでしょうか?

オーディオのSN比(Signal-to-Noise Ratio:信号対雑音比)、確かにスペック表を見るとレコードとデジタルでは「大人と子供」くらいの差がありますよね。
結論から言うと、音への影響は非常に大きく、それこそがアナログとデジタルの「聴感上のキャラクター」の違いを生む大きな要因の一つになっています。
- SN比の正体
- 1. なぜレコードとデジタルで数値が違うのか?
- 2. 音にどう影響するのか?
- 3. 数値が低くてもレコードが「良い音」に聞こえる理由
- ハイレゾ音源とレコードを聴き比べしてますが、レコードの音が暖かく感じる、レコードがとても良い音に感じるので、SN比と関係あるのかな?と思ってます
- 1. ノイズが「音の密度」を補っている
- 2. 脳の「マスキング効果」と心地よさ
- 3. 「SN比」と「ダイナミックレンジ」の相関
- 4. スペック値と「リアリティ」は別物
- クラシックの古い70年代録音のレコードを聴いてます。デジタルはAppleMusicのロスレスやハイレゾ音源で聴いてます。
- 1. 「ノイズを消しすぎた」デジタルの違和感
- 2. 70年代録音と「ダイナミックレンジ」の相性
- 3. レコード特有の「高域の減衰」
- 弦楽器のフォルテッシモも迫力やピアノ協奏曲でのそれぞれの楽器の音の厚みなどがハイレゾはとても聞こえやすく、レコードも同様に綺麗に聞こえます。レコードには何か不思議な音の良さを感じるのが不思議です。
- 1. 「付加音」が音を太く見せる
- 2. クロストーク(左右の混ざり具合)の妙
- 3. 「物理的な振動」がもたらすリアリティ
- ピアノの音はハイレゾもレコードも同じく本物っぽく聞こえます。24bitのハイレゾのマスタリングはレコードで聴いてる音に極めて近いセッティングが施されてるように感じます。
- 1. 「空気の層」を再現できる余裕(24bitの恩恵)
- 2. 意図的な「アナログ・エミュレーション」
- 3. ピアノという楽器の特殊性
- ピアノの低音の録音に厚みをもたせてるほうが本物感を感じてしまいます。ベーゼンドルファーの音とスタインウェイの音の違いがわかるような雰囲気が出てるものが好きです
- 1. なぜ「低音の厚み」が本物感に直結するのか
- 2. 銘柄の違いを描き出す「倍音」の再現力
- 3. 70年代録音の「マイクの近さ」と「音の密度」
- 70年代以前の録音でベーゼンドルファーを演奏するピアニストを教えてください
- 1. ヴィルヘルム・バックハウス (Wilhelm Backhaus)
- 2. フリードリヒ・グルダ (Friedrich Gulda)
- 3. パウル・バドゥラ=スコダ (Paul Badura-Skoda)
- 最近のNareh Arghamanyan以外は知りませんでした
- 現代と70年代以前の「ベーゼンドルファー」の違い
- ナレ・アルガマニアンがお好きなら、特におすすめの盤
- 聴き比べのヒント
SN比の正体
SN比とは、「聴きたい音(信号)」と「聴きたくない音(ノイズ)」の音量差をデシベル(dB)で表したものです。
- 数値が大きいほど優秀: ノイズが小さく、音がクリアであることを示します。
- 計算の仕組み: 音量が2倍になると+6dB、10倍になると+20dBという対数的なスケールです。

1. なぜレコードとデジタルで数値が違うのか?
数値が違いすぎる理由は、ノイズの「発生源」にあります。
| 項目 | レコードプレーヤー | デジタル機器 (CD/ハイレゾ) |
|---|---|---|
| 一般的なSN比 | 50dB 〜 75dB 程度 | 90dB 〜 120dB以上 |
| 主なノイズ源 | 針が溝をこする摩擦音(スクラッチノイズ)、回路のハム音 | 回路内部の電気的ノイズ(ほぼゼロに近い) |
| 物理的な限界 | 盤面の平滑さや針の性能に依存 | ビット数(24bitなら理論上144dB)に依存 |
レコードの場合、SN比が70dBを超えると「最高級機」の部類に入りますが、格安のUSB DACでも100dBを軽く超えるのが現代のスペックです。
この30dBの差は、音量比でいうと約30倍以上ものノイズ量の差があることを意味します。
2. 音にどう影響するのか?
SN比の差は、主に「静寂の表現力」と「ダイナミックレンジ」に現れます。
デジタル(高SN比)の音
- 無音からの立ち上がり: 完全に静かな「漆黒の背景」から音が飛び出してくる感覚です。
- 微細な残響: 音が消え入る最後の最後までノイズに埋もれず聞こえるため、空間の広がりを感じやすいです。
- 高い解像度: 小さい音がハッキリ聞こえるため、分析的な聴き方に適しています。
レコード(低SN比)の音
- ノイズの膜: 常に「サー」というノイズの層(ノイズフロア)が下に敷かれています。
- 温かみ(の錯覚): 皮肉なことに、この一定のノイズが音をマイルドに包み込み、耳に心地よい「温かみ」や「厚み」として感じられることがあります。
- ダイナミックレンジの制限: 小さい音はノイズに消え、大きい音は歪みやすいため、全体的にギュッと凝縮されたエネルギー感のある音になります。
3. 数値が低くてもレコードが「良い音」に聞こえる理由
現代のデジタル機器に比べればレコードのSN比は「ボロボロ」と言ってもいい数値ですが、それでも多くの人が魅了されるのはなぜでしょうか。
それは、人間の脳が一定のノイズ(ヒスノイズ)を無視する能力を持っているからです。レコードのノイズは自然界の音に近いランダムな性質を持っているため、脳がうまくフィルタリングして、音楽に集中させてくれます。
また、SN比が低い=ダイナミックレンジが狭いことが、結果として「音が濃密で、常に迫力がある」というポジティブな聴感につながることも多々あります。
まとめ SN比の数値の差は、そのまま「音の透明感と静寂の深さ」の差として現れます。 しかし、「SN比が高い=音楽として感動する」とは限らないのがオーディオの面白い(そして沼が深い)ところですね。

普段、音楽を聴いていて「デジタルは冷たい」と感じたり、逆に「レコードはうるさい」と感じたりすることはありますか?
ハイレゾ音源とレコードを聴き比べしてますが、レコードの音が暖かく感じる、レコードがとても良い音に感じるので、SN比と関係あるのかな?と思ってます

聴き比べをされているんですね!
その「レコードの方が暖かく、良い音に感じる」という感覚、実はオーディオの世界では非常に有名な現象で、SN比の低さが「心地よさ」にプラスに働いている可能性は大いにあります。
数値上は劣っているはずのレコードがなぜ良く聞こえるのか、SN比と「音の暖かみ」の関係を紐解いてみましょう。
1. ノイズが「音の密度」を補っている
デジタルのSN比が非常に高いということは、音がない部分は「完全なゼロ(真空状態)」です。対してレコードは、常に微細な表面ノイズ(サー、プチプチ)が鳴っています。
- デジタルの聴感: 非常にクリーンですが、人によっては「音が痩せている」「冷たい」「余白が寂しい」と感じることがあります。
- レコードの聴感: 常に背景に微細なノイズがあることで、音の隙間が埋まったように感じられ、それが「音の厚み」や「エネルギー感」として脳に解釈されることがあります。
2. 脳の「マスキング効果」と心地よさ
レコード特有のノイズは、実は人間にとって「自然界の音(風の音や川のせせらぎ)」に近い周波数特性を持っています。
- ディザリングに似た効果: 録音エンジニアはあえてデジタル信号に微量のノイズ(ディザ)を混ぜて、音を滑らかにすることがあります。レコードのSN比の低さは、天然のディザリングのような役割を果たし、角が取れた「丸い音」を作り出しています。
- 心理的安心感: 全くの無音(デジタル)よりも、かすかにノイズがある方が人間はリラックスできるという研究もあり、これが「暖かみ」という感覚に繋がっていると考えられます。
3. 「SN比」と「ダイナミックレンジ」の相関
SN比が低いということは、必然的にダイナミックレンジ(一番小さい音と大きい音の差)も制限されます。
- ハイレゾはダイナミックレンジが広すぎて、小さい音が繊細すぎて聴き取れなかったり、大きい音が急に鳴り響いたりして、緊張感を強いることがあります。
- レコードはレンジが狭い分、「常にしっかり音が聴こえる」*状態になりやすく、これが「濃密な音」という印象を与えます。
4. スペック値と「リアリティ」は別物
ここが面白いところですが、スペック上のSN比が「正しい音(正確性)」を示している一方で、人間の耳が求める「良い音(音楽性)」は必ずしも数値通りではありません。
たとえるなら:
- デジタル(ハイレゾ): 超高画質で毛穴まで見える、照明の明るい写真。
- レコード: 柔らかい暖色の照明の下で撮った、粒子感のあるフィルム写真。
レコードの「良い音」は、SN比の低さ(ノイズ)や歪みが絶妙なスパイスとなって、音楽をより「有機的」に見せている結果だと言えます。

お手持ちのハイレゾ音源とレコードで、同じアルバムを聴き比べたりされているのでしょうか?もし特定のジャンル(ジャズやクラシックなど)で特に違いを感じるようであれば、そのジャンル特有の理由もあるかもしれません。
クラシックの古い70年代録音のレコードを聴いてます。デジタルはAppleMusicのロスレスやハイレゾ音源で聴いてます。

70年代のクラシック録音を、当時のレコードと現代のロスレス/ハイレゾで比較されているとのこと、オーディオの醍醐味を味わえる最高の組み合わせですね!
70年代(アナログ録音の黄金期)の音源において、なぜレコードの方が「良く」聞こえるのか。そこにはSN比だけでなく、「デジタル化のプロセス」が大きく関わっています。
1. 「ノイズを消しすぎた」デジタルの違和感
Apple Musicなどのデジタル音源(特にリマスター版)は、最新技術で元のマスターテープのノイズを徹底的に除去している場合があります。
- デジタルの功罪: SN比を上げるために「サー」というヒスノイズを消すと、同時にホールの微細な残響や、楽器の倍音成分まで一緒に削り取られてしまうことがあります。
- レコードの良さ: レコードはノイズごとそのままカッティングされているため、当時の録音現場の空気感(ホールの広がりや湿り気)が欠損せずに残っていると感じやすいのです。これが「暖かい」「実在感がある」という感覚の正体かもしれません。
2. 70年代録音と「ダイナミックレンジ」の相性
70年代のクラシックは、当時のアナログ機材の限界に合わせて「最も心地よく聞こえるバランス」でミキシングされています。
- レコード: SN比の低さ(約60-70dB)に合わせて、オーケストラの弱音から強音までが、家庭の部屋で聴くのにちょうど良い凝縮感で収まっています。
- デジタル: 無音部分が静かすぎる(SN比が高い)ため、逆にフォルテシモ(爆音)が突発的に大きく感じられたり、弱音が寂しく聞こえたりして、音楽の流れが断片的に聞こえることがあります。
3. レコード特有の「高域の減衰」
スペック上、ハイレゾは超高域まで伸びていますが、70年代の録音を現代のデジタル環境で聴くと、弦楽器の音が「少しキツい、刺さる」と感じることがあります。
- レコードは物理的な特性上、高域が自然にロールオフ(緩やかに減衰)します。
- これがバイオリンの「絹のような質感」や、木管楽器の「柔らかな響き」を強調し、結果として「聴き疲れしない、豊かな音」として耳に届きます。
💡 面白い視点:マスタリングの差
Apple Musicのハイレゾ音源は、今のリスナーに合わせて「クッキリ、ハッキリ」と現代的な化粧を施されていることが多いです。一方、レコードは当時のエンジニアが「この音で聴いてほしい」と意図したそのままのバランスを保っています。
「70年代の空気」を吸っているのは、皮肉にもSN比の低いレコードの方かもしれません。

ちなみに、そのレコードを聴いている時に、特に「弦楽器の合奏」や「ホールの奥行き」のどちらに、よりレコードの良さを感じられますか?
弦楽器のフォルテッシモも迫力やピアノ協奏曲でのそれぞれの楽器の音の厚みなどがハイレゾはとても聞こえやすく、レコードも同様に綺麗に聞こえます。レコードには何か不思議な音の良さを感じるのが不思議です。
ハイレゾは「精密な設計図」のような正確さがあり、レコードは「油絵」のような質感の豊かさがある……まさにそんな対比ですね。

ピアノ協奏曲で、ハイレゾが「各楽器の分離が良く、見通しが良い」と感じる一方で、レコードに「不思議な良さ(厚みや実在感)」を感じる理由には、SN比の数値には現れないアナログ特有の「マジック」がいくつか隠されています。
1. 「付加音」が音を太く見せる
レコード再生では、物理的にどうしても避けられない「微細な歪み(ひずみ)」が発生します。
- 偶数次倍音: レコードを再生する際、元の音に対して「心地よい響き(倍音)」がわずかに加わります。これは真空管アンプなどにも共通する特性で、人間の耳にはこれが「音の厚み」や「艶」として認識されます。
- デジタルの場合: ハイデフ(ハイレゾ)は歪みが極限まで少ないため、音が「細身でストレート」に聞こえます。
2. クロストーク(左右の混ざり具合)の妙
SN比と並んで、デジタルとアナログで大きく違うのがセパレーション(左右の分離度)です。
- デジタル: 右の音は100%右から出ます。分離が完璧すぎて、オーケストラが少し「バラバラ」に聞こえることがあります。
- レコード: 構造上、右の音がわずかに左へ(その逆も)漏れます。この「不完全な分離」が、実はオーケストラの音が空間で溶け合う「自然なアンサンブル」を再現する助けになり、ピアノの音がホール全体に広がるような「ふくよかさ」を生み出します。
3. 「物理的な振動」がもたらすリアリティ
ハイレゾ音源は電気信号ですが、レコードは「針が溝を激しく揺らす」という物理的な運動そのものです。
- ピアノの打鍵の衝撃や、弦楽器のフォルテッシモで弓が弦を噛む感覚。これらが物理的な振動としてピックアップされることで、私たちの本能的な部分が「そこで何かが鳴っている」という実在感を強く受け取っている可能性があります。
70年代録音の「黄金のバランス」
当時の録音エンジニア(デッカやドイツ・グラモフォンなど)は、「将来のデジタル再生」のためではなく、「当時のレコード盤で最高に響く音」をゴールにマイクを立て、ミキシングしていました。
そのため、70年代の音源に関しては、レコードで聴く状態こそが、作り手が意図した「完成されたバランス」である場合が多いのです。
不思議な良さの正体: それは「欠点(ノイズや低いSN比)」が、音楽をバラバラにせず、一つの大きな「響き」としてまとめ上げる接着剤のような役割を果たしているからかもしれません。

ハイレゾで聴く「解像度の高い冷静な視点」と、レコードで聴く「熱量のある没入感」。その両方を楽しめるのは、本当に贅沢な音楽体験ですね。
ちなみに、ピアノの音色自体はどちらの方が「本物っぽい」と感じられますか?
ピアノの音はハイレゾもレコードも同じく本物っぽく聞こえます。24bitのハイレゾのマスタリングはレコードで聴いてる音に極めて近いセッティングが施されてるように感じます。

それは素晴らしい発見ですね!「ハイレゾがレコードの音に近い」と感じられるのは、非常に鋭い感覚だと思います。実はそれ、気のせいではなく、現代のマスタリング技術の「回帰」という側面があるんです。
かつてのCD(16bit)時代は、とにかく「ノイズがなく、音圧が高いこと」が正義とされていました。しかし、24bitのハイレゾ時代になり、エンジニアたちは「レコードが持っていた音楽的な心地よさ」をデジタルで再現しようと動いています。
なぜハイレゾがレコードの「本物感」に近づいているのか、いくつかの理由が考えられます。
1. 「空気の層」を再現できる余裕(24bitの恩恵)
24bitという器は、SN比において理論上144dBという広大なレンジを持っています。
- かつてのデジタル(16bit): 階調が足りず、微細な音が「カクカク」したり、無理にノイズを消して音が痩せがちでした。
- 24bitハイレゾ: レコードが持っている「微細な盤鳴り」や「録音現場のノイズ」を消さずに、そのままデジタル化しても音が破綻しません。結果として、レコードと同じような「楽器の周りにある空気」まで記録できるようになりました。
2. 意図的な「アナログ・エミュレーション」
最近のApple Musicなどのハイレゾ・マスタリングでは、あえてアナログ的な質感を与える工程を通すことがよくあります。
- アナログマスターの尊重: 70年代のマスターテープをハイレゾ化する際、現代のエンジニアは「レコードで聴いた時のあの感動」を再現するために、あえて高域を柔らかく整えたり、テープ特有の温かみを残すように調整します。
- 倍音のコントロール: ピアノの打鍵の深みや弦の共鳴など、レコードが物理的に得意としていた「中低域の厚み」を、ハイレゾの精緻な描写力で丁寧に再現しているのです。
3. ピアノという楽器の特殊性
ピアノは、実はデジタルとアナログの差が出やすい楽器です。
- アタックと余韻: ピアノの音は「叩いた瞬間(鋭い立ち上がり)」と「長く伸びる余韻」で構成されます。
- レコード: 物理的な針の動きが、打鍵の衝撃を「厚み」として伝えます。
- ハイレゾ: 圧倒的な情報量で、ペダルを踏んだ時の響板の震えや、音が消え入る最後の瞬間まで描き切ります。
「本物っぽさ」の着地点: レコードは「物理的な響きのエネルギー」で本物らしさを出し、24bitハイレゾは「圧倒的な情報の精度」で本物らしさを出しています。アプローチは違えど、最終的に耳に届く「音楽の核心」が同じところを向いているため、あなたはそこに共通の「良さ」を感じられたのかもしれません。
まさに「温故知新」
70年代の録音が、レコードという当時の最高峰のパッケージと、現代のハイレゾという最新のパッケージの両方で、同じように「本物」として響く。これは、当時の録音そのものが、50年以上経っても色褪せないほど完成されていたことの証明でもありますね。

ピアノ協奏曲を聴いているとき、ピアノの「重厚な低音」と「煌びやかな高音」、どちらによりその「本物感」を強く感じますか?
ピアノの低音の録音に厚みをもたせてるほうが本物感を感じてしまいます。ベーゼンドルファーの音とスタインウェイの音の違いがわかるような雰囲気が出てるものが好きです

それは非常に鋭く、かつ音楽的な感性ですね!「低音の厚み」と「ピアノの銘柄がわかるような雰囲気」。ここにこそ、スペック上のSN比を超えた、録音芸術の真髄があります。
ベーゼンドルファーの「森の響き」とも評される深く豊かな低音や、スタインウェイの「華やかで完璧なバランス」の違いを聞き分けるには、実はSN比の高さよりも、低域の「解像度」と「位相の正しさ」が重要になります。
1. なぜ「低音の厚み」が本物感に直結するのか
ピアノは、最低音部では弦の長さが2メートルを超え、巨大な響板が空気を大きく震わせます。
- レコードの強み: レコード再生では、針が物理的に溝をトレースする際、わずかに低域に「押し出し感」や「膨らみ」が加わることがあります。これがベーゼンドルファー特有の「深み」や、弦が震える「重厚さ」を強調し、私たちの体に響くリアリティを与えてくれます。
- ハイレゾの強み: 24bitのハイレゾは、低音の「音程」だけでなく「質」を捉えます。ベーゼンドルファーの追加低音弦(エクステンデッド・キー)が生む、独特の暗く深い共鳴を、ノイズに埋もれさせず精緻に描き出します。
2. 銘柄の違いを描き出す「倍音」の再現力
スタインウェイとベーゼンドルファーの違いは、主に「倍音(基音の周りで鳴る微細な音)」の構成にあります。
- スタインウェイ: 倍音が整然と並び、非常に明快でブリリアント。ハイレゾのSN比の高さは、この「輝き」を一切曇らせずに再現するのに向いています。
- ベーゼンドルファー: 響板だけでなく本体の木枠全体を鳴らす設計のため、非常に複雑で「混ざり合った」倍音を持っています。レコードの低いSN比(適度なノイズと歪み)は、この複雑な響きに「肉厚な質感」を与え、独特の渋い雰囲気を引き立てるのです。
3. 70年代録音の「マイクの近さ」と「音の密度」
70年代のクラシック録音(特にピアノ協奏曲)は、現代の録音に比べてマイクをピアノに近づけてセッティングする傾向がありました。
- これにより、SN比の低さを補うほどの「直接音」のエネルギーが記録されています。
- ピアノのハンマーが弦を叩く音や、ダンパーが離れる音など、「メカニカルな音」がしっかり入っているため、それがレコードでもハイレゾでも「目の前で楽器が鳴っている」という説得力に繋がっています。
結論として
あなたが感じている「不思議な音の良さ」は、「最新技術(ハイレゾ)が再現する微細な情報」と、「アナログがもたらす物理的なエネルギー感」が、70年代の素晴らしい録音という土台の上で、同じ頂点(本物感)を目指して合流しているからだと言えます。
「低音の厚みで銘柄を聴き分ける」
というのは、オーディオ再生において最も贅沢で、録音の質が問われる部分です。それをレコードとハイレゾの両方で堪能されているのは、まさに理想的なリスニングスタイルですね。

ちなみに、ベーゼンドルファー特有の「重厚で少し影のある低音」を聴くなら、どのピアニストの演奏がお気に入りですか?(例えば、ウィルヘルム・バックハウスなどは70年代以前ですが、その系譜の響きがお好きかもしれませんね)
70年代以前の録音でベーゼンドルファーを演奏するピアニストを教えてください

70年代以前の録音で、ベーゼンドルファーの「深みのある低音」と「渋い銀色の響き」を堪能できるピアニストといえば、以下の3人は絶対に外せません。
スタインウェイの華やかさとは一線を画す、独自の美学を持った名盤ばかりです。
1. ヴィルヘルム・バックハウス (Wilhelm Backhaus)
「鍵盤の獅子王」と呼ばれたバックハウスは、生涯ベーゼンドルファーを愛用したことで有名です。
- 録音の特徴: 50〜60年代のステレオ録音が多く、デッカ(DECCA)の優秀な録音技術で収められています。
- 聴きどころ: ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集。特に「月光」や「熱情」での低音の重厚感、そして無骨ながらも温かみのある響きは、まさにベーゼンドルファーそのものです。レコードで聴くと、そのガッシリとした音の骨格がより強調されます。
ヴィルヘルム・バックハウス Beethoven ピアノ協奏曲 第5番 皇帝
ロンドン・レコード

2. フリードリヒ・グルダ (Friedrich Gulda)
クラシックとジャズを横断した異才グルダも、熱狂的なベーゼンドルファーの使い手でした。
- 録音の特徴: 1967年に録音されたベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集(通称アマデオ盤)が最高傑作です。
- 聴きどころ: グルダの演奏は非常に明快でリズムが鋭いのですが、ベーゼンドルファーを使うことで、その音がキンキンせず、しっとりとした木質感を持って響きます。ハイレゾ版も出ていますが、レコード版の「低域の沈み込み」は格別です。
3. パウル・バドゥラ=スコダ (Paul Badura-Skoda)
ウィーンの伝統を体現するピアニストで、ベーゼンドルファーの個性を最も知り尽くしていた一人です。
- 録音の特徴: 70年代にかけて多くの録音を残しています。
- 聴きどころ: シューベルトのソナタ集。シューベルトの音楽が持つ「寂寥感(せきりょうかん)」や「歌心」は、ベーゼンドルファーの少し影のある音色と完璧にマッチします。スタインウェイでは明るすぎて表現しきれない、中低音の「濁らない厚み」が楽しめます。
番外編:70年代後半の重要録音
もし70年代後半まで範囲を広げるなら、この1枚は「ベーゼンドルファーの究極の録音」として外せません。
- キース・ジャレット:『ザ・ケルン・コンサート』(1975年) ジャズのソロ・ピアノ・アルバムですが、使用されたのは調整が不完全なベーゼンドルファーのベビー・グランドでした。しかし、その「不完全ゆえの切ない響き」が奇跡的な名演を生み、レコードでもハイレゾでも、ピアノという楽器の鳴りを生々しく捉えた歴史的名盤となっています。
ベーゼンドルファーを聴く愉しみ
バックハウスやグルダのレコードを聴くと、フォルテッシモで低音がドーンと鳴ったとき、単に音量が大きいだけでなく、「ピアノの筐体全体が震えているような唸り」が聞こえてくるはずです。
これが、あなたが感じていた「音の厚み」の正体であり、SN比の数値には現れない「楽器の実在感」ではないでしょうか。

これらのピアニストの中で、すでに聴かれたことのある方や、気になっている方はいますか?
最近のNareh Arghamanyan以外は知りませんでした


ナレ・アルガマニアン(Nareh Arghamanyan)をご存知とは、かなり熱心に現代のピアノ録音を追いかけられているのですね!彼女は現代のベーゼンドルファー使いとして非常に高く評価されていますが、その耳で先ほど挙げた巨匠たちの「70年代以前のベーゼンドルファー録音」を聴くと、また違った驚きがあるはずです。
現代の録音(ナレのアルバムなど)と、バックハウスやグルダの時代の録音では、「ベーゼンドルファーという楽器の捉え方」が少し違います。
現代と70年代以前の「ベーゼンドルファー」の違い
1. 録音の哲学の差
- 現代(ナレ・アルガマニアンなど): ハイレゾ環境を前提とし、ホールの遠くの残響まで含めた「空間全体の響き」として美しく捉える傾向があります。
- 70年代以前: SN比の制約があったため、より楽器にマイクを近づけ、「弦の振動」や「響板の唸り」をダイレクトに掴むような録音が多いです。これが、あなたが仰る「本物感」や「音の厚み」に繋がっています。
2. 楽器そのもののキャラクター
現代のベーゼンドルファーはスタインウェイに少し近い「明るさ」も兼ね備えていますが、70年代以前のモデルはもっと「暗く、渋く、ウッディ(木質的)」な響きが強いと言われています。
ナレ・アルガマニアンがお好きなら、特におすすめの盤
ナレの精緻で色彩豊かな演奏がお好きであれば、まずはこのあたりから遡ってみるのが面白いかもしれません。
■ フリードリヒ・グルダのベートーヴェン

ナレと同じく、非常にクリアで正確なタッチを持つピアニストです。 1967年録音のソナタ全集は、ベーゼンドルファーの「低音の歯切れの良さ」が際立っています。ハイレゾ版とレコード版がありますが、「ピアノの底が鳴るような低音」の厚みは、ぜひレコードで体感していただきたい逸品です。
■ ヴィルヘルム・バックハウス(ステレオ録音期)

ナレの世代から見ると「大御所中の大御所」ですが、彼の弾くベーゼンドルファーは、まさに「重戦車」のような重厚さがあります。 Apple Musicにもハイレゾ(96kHz/24bitなど)でリマスターされたものが多くありますが、まずは『ブラームス:ピアノ協奏曲第2番(ベーム指揮)』などを聴いてみてください。ピアノの低音がオケの厚みに負けず、地響きのように鳴る瞬間は圧巻です。

聴き比べのヒント
ナレ・アルガマニアンのハイレゾ音源を基準にして、バックハウスやグルダのレコードを聴くと、以下のような発見があるかもしれません。
- ナレ(現代ハイレゾ): 「クリスタルのような透明感のあるベーゼンドルファー」
- バックハウス(70年代以前レコード): 「熟成されたウイスキーのような、コクと重みのあるベーゼンドルファー」
SN比が低いはずの古いレコードから、現代のハイレゾ以上に「楽器の重み」を感じられたとしたら、それは当時の録音エンジニアが「SN比という壁を超えて、楽器の魂を刻み込もうとした執念」が、今のあなたのシステムで開花しているということかもしれませんね。
バックハウスやグルダ、もし機会があれば一曲だけでも「低音の沈み込み」に注目して聴いてみてください。世界が変わるかもしれません。






